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笑い 命さざめく アハハ 心ほぐすヨガ インド発祥 世界に愛好者

東京新聞 | 2017年8月22日掲載

◆笑い 命さざめく アハハ 心ほぐすヨガ インド発祥 世界に愛好者

 「アッハッハ」。雨上がりのドイツ・フランクフルト。まぶしい新緑の公園で、インド人医師マダン・カタリア(61)が一声を上げると、100人ほどの男女の笑い声が共鳴し、波のように広がった。

 手拍子を打ち、大きく息を吸って、演じるように笑い転げる健康法「笑い(ラフター)ヨガ」。6月下旬に同市で、初の世界大会が開かれた。移民の若者も散歩の途中で、笑いの渦に吸い込まれた。「おかしくなくても、ヨガの呼吸で体操として笑おう」と、カタリアは訴える。「幸せはその後で生まれる。ハハハ」

■気持ちは後から□

 「笑いの導師(グル)」とも呼ばれるカタリアは、北部パンジャブ州の貧しい村で生まれ、西部ムンバイで医師になった。4人の仲間と活動を始めたのは1995年。インドは膨大な人口がひしめき合う、気難しい格差社会だ。しかめ面が張り付いたような人は少なくない。

 「ストレスを減らして健康になろう、とクラブを結成した」。公園で毎朝笑っていたが、10日ほどでジョークの種が尽きた。

 「目的は健康だから、うそでも笑うことにした。一種の体操と考え、ヨガを取り入れた」。笑いを演じて、ストレスを減らす健康法だ。
 腹式呼吸でゆっくりと吐く息に、笑いを乗せる。さらに息を吸って酸素を十分に取り入れる。15分以上繰り返す。まず体がリラックスし、後で気持ちも軽くなる。周囲も楽しい気持ちになる。

 「おかしいから笑う」だけでなく「笑って幸せになる」。発想を転換した時、ヨガ発祥の地に、世界を席巻する新風が生まれた。

 伝統ヨガの指導者たちは「不真面目だ」と批判したが、口コミや報道で、各地へ広がっていった。

 次々と“伝道師”が現れ、米国を皮切りに2000年代以降、世界106カ国・地域に草の根で普及。愛好者は一説に25万人以上(米誌ニューヨーカー)とも。生真面目な社会性が共通するためか「特に日本とドイツでの勢いが強い」とカタリア。日本にはクラブが約800、愛好者が約3万人いるという。

■被災者も囚人も□

 「ハラショー」「非常好」「ベリーグッド」。約30の国と地域、約300人が集う世界大会では、各国語が飛び交った。

 関西で普及活動をする林小絵(40)は東京で仕事を辞め、人間関係に悩んでいた5年前、笑いヨガの存在を知った。「引っ込み思案だったが、笑うことで自分の心に正直になり、生きやすくなった」と言う。

 大阪市の青木真起子(51)が指導するクラブには、自閉症の会員もいる。保護者は「周囲にからかわれるので笑うな」と教えていた。「硬かった表情が変わった」。熊本地震の避難所では、被災者の心の支援にも、笑いヨガが力を発揮する。

 紛争下のイスラエルでも盛んだ。ユダヤ人アナト・トクジャマン(45)は、パレスチナ自治区ガザの近くで安宿を経営する。ガザで衝突があるたび、爆発音とテロの恐怖に苦しんできた。「おかげで日常生活でも笑えるようになった」。防空壕(ごう)で実践し、市民のパニックを抑えた仲間もいる。

 メキシコの刑務所は、囚人の更生プログラムに組み込み、性格が穏やかになる効果を上げた。ストリートチルドレンの犯罪を抑止するため導入した南米ベネズエラ。ドイツでは企業の社員交流に役立てる。

■夢は笑いの大学□

 笑いヨガが高齢者の医療費削減につながるとの見方もある。カタリアは「わたしが想像していたより、もっと大きい、新しい世界を生み出せた」と目を細めた。

 「深呼吸して、笑いながら息を吐き出して」。パンジャブ州ルディアナの5月は、気温が40度を超える灼熱(しゃくねつ)の季節だ。私立学校の校庭で、まっすぐな目をした若者数百人が、カタリアのかけ声で大笑いしていた。故郷が近い。高校生らを対象に、クラブを始めた。

 「インドは学歴社会で、子どもは受験勉強のストレスが大きい。娯楽はネットばかり。笑うのが大切と考えたんだ」

 カタリアは20年以上、高熱が出ても、毎朝30分の笑いを欠かさなかった。思い描く理想の「インドモデル」とは「厳しい社会でも、祭りや結婚式で家族や仲間が集えば、子どものような笑みが自然とあふれる。そんな境地だ」。夢はインドに、笑いの大学を設けることだ。

 「現代社会は苦しみばかりだ。大災害に経済危機、イスラム過激派のテロ。家に閉じこもって、泣いてたら寂しいじゃないの。さあ、大地の上で、顔を合わせて笑おう」

 笑いは意志だ。アハハハ、ワハハ。高らかに、生きるために。(敬称略、文・高山裕康=共同)

あとがき

 「笑い上戸で、心の底から陽気」。幕末・明治を外国人の目で見た「逝きし世の面影」(渡辺京二)による当時の日本人の姿だ。

 笑いヨガの普及で、生真面目な日本人サラリーマンを笑わせるのは特に大変と聞く。日本が笑いの少ない社会になったのは、近代化が原因なのかも知れない。

 のどかな時間が過ぎるヒマラヤの村々と比べ、数千万人が競争するインドの大都市は、人々の表情が険しい。世界で笑いヨガが広まったのも、主要な大都市だ。

 ただ人種や国籍が違っても、不思議と笑い声は共通している。トルストイが幸福について「不幸とは違い、どれも同じように見える」と指摘したことと、関係があるのかもしれない。

<えとき>

(左)ドイツで開かれた「笑いヨガ」の初の世界大会。公園でマダン・カタリア(手前)が両手を上げて実演すると、笑いの渦が広がっていく (右)世界大会には喜劇王チャップリンの孫娘ローラ・チャップリンさんの姿も。さまざまな笑いの表情を見せていた(多重露光)=いずれもドイツ・フランクフルトで(撮影トマス・ローネス、共同)

<えとき>

インド北部パンジャブ州ルディアナの寺院で行われた「笑いヨガ」。気難しい大人が少なくないインドだが、シーク教徒の男性らが相好を崩した(撮影プリヤム・ダール、共同)

この記事でHAPPYな気持ちになったら

VOICE!応募作品から 40代 女性 主婦 東京都

 「“笑い”が世界をHAPPYにする」
 昨今の新聞で目にしない日はないトピックといえば、世界中のあちらこちらで起こる紛争のニュース、そして戦前の日本に回帰するのではないかと不安になるような政治的案件のニュース。自分にはどうすることもできない大きな流れを目の当たりにして、いつも陰うつな気持ちになります。
 ところが、その日だけは紙面を開いた瞬間に、視界が一気に明るく晴れました。「笑いヨガ」の特集でした。集まった人たちがあふれんばかりの笑顔を浮かべて両手を広げている写真。その一見、非日常的な光景が、直球で心に飛び込んできて、思わず涙が出てきました。「これだ、今、世界中の人たちが必要としていることは!」。そう感じました。
 “笑い”は免疫力を向上させ、健康や長寿につながることが医学的に実証されつつあります。自治体が住民の健康維持のために笑いを活用する様子は、時々メディアにも取り上げられています。私自身も何度かニュースで見たことがありました。手軽に誰でも実践できる健康法として、“笑い”は最適、そんな概念をもっていました。そこに、今回の「笑いヨガ」の特集です。笑いが健康維持のツールである点では他と変わりません。しかし、記事に書かれていた笑いヨガ実践者の言葉にハッとしました。「自分の心に正直になり、生きやすくなった」「硬かった表情が変わった」「日常生活でも笑えるようになった」
 笑いには、体だけでなく心の健康にも大きな効果があることを思い出したのです。 
 地球上のすべての人たちが、写真に写る人たちのように笑って毎日を過ごせたら、今、世界中で起こっている問題も解決するのではないか、そんな希望を感じました。
 現実には難しいかもしれません。でも、記事を読んで、“笑い”が世界を救うかもしれないと考えただけで、心が軽くなりました。

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